仮想通貨でインサイダー取引するのは違法?法律上の取り扱いを解説
もしも特定の企業の株価が上がるという確かな情報を事前に掴むことができたら、確実に投資で利益を得ることができます。
その情報を得た方法が真っ当なやり方ならば、特に問題はありません。しかし、まだ公開されておらず、本来であれば知っているはずでない情報だというのであれば話は別です。
まだ未公開の、それも本来ならば誰も知らないはずの情報を使って株券などの売買を行い、利益を稼ぐことをインサイダー取引と言います。株式投資の世界において、インサイダー取引は犯罪です。株のインサイダー取引を行うと、罰則を受けることになります。
では、仮想通貨の場合はどうなのでしょう?
もしもビットコインなどの仮想通貨の値上がりに関する情報を事前に知り、それを基に取引をし、利益を稼いだら、それはインサイダー取引ということで罰則を受けるのでしょうか?
インサイダー取引とは?
投資の世界でよく耳にするインサイダー取引とは、そもそも一体何なのでしょう?
インサイダー取引とは会社関係者などが特定の企業の上場に関する情報を事前に掴み、その情報が公表される前に上場予定の株券の売買を行う行為のことなどを指します。
要するに、未公開の情報を使って投資をし、儲ける行為がインサイダー取引となります。そのため、既に公開されている情報をヒントに投資をする分には特に問題はありません。
さらに、インサイダー取引に該当する人物とは、会社関係者もしくは元会社関係者など、その重要事実を知ることができる立場にいる人だけとなります。そのため、立場によってはインサイダー取引に該当しないケースも存在します。ちなみに、会社関係者の家族や親族はインサイダー取引の対象となります。
では、具体的にインサイダー取引に抵触する行為とは、どのようなものがあるのでしょう?
インサイダー取引に該当する行為
インサイダー取引は少し曖昧な規制ということもあってか、どこまでが合法で、どこまでが違法なのかが明瞭ではありません。
インサイダー取引に該当する事例というと、まず上場企業の役員や社員が事前に情報を知り、その株券を売買するというケースがあります。
この事例の場合、確実にインサイダー取引に該当します。では、親族を含む会社関係者以外の人が情報を知り、売買をする場合はどうなのでしょう?
たとえ会社関係者でなくても、株主のような上場企業の帳簿を閲覧できる立場にいる人や、公務員などの上場企業の情報を事前に知れる権限がある人、公認会計士などの上場企業と契約のある人、銀行の役員などの上場に関する情報を事前に知れる立場にいる人などは、インサイダー取引に該当する人物です。
他にも、マスコミ関係者など、報道前に情報を知ることができる立場の人も、インサイダー取引の対象となります。そのため、報道機関ともなるとどこもスタッフの株式投資を禁止しているものです。
たとえ本人に悪意がなくても、知人や友人に上場に関する情報を漏らし、その知人や友人に株取引をさせると、インサイダー取引に該当しますので注意しましょう。
たとえ重要事実を知っていたとしても、株取引をしないのであればインサイダー取引には該当しません。さらに、たとえ重要事実を知っていた上で株取引をしたとしても、既にその情報が公表され、誰でも知ることができる状態ならば、やはりインサイダー取引には抵触しないです。
公表後であれば、いくら株式投資をしても問題はありません。
仮想通貨はインサイダー取引に該当するのか?
上場などの重要情報を事前に知り、株式投資をする行為はインサイダー取引に該当します。では、仮想通貨の場合はどうなのでしょう?
インサイダー取引といっても様々で、中にはインサイダー取引に該当しない金融商品もあります。
例えば、FXなどがまさにそれです。FXの対象である為替市場は、株式市場とは比較にならないほど巨大です。それだけに、インサイダー取引をした程度ではとてもではありませんが、利益が獲れないとされています。
そのような事情もあってか、事前に各国の政策金利に関する情報を知り、それをヒントにFXをやったところで、インサイダー取引の規制対象となることはないです。
では、仮想通貨についてはどうなのでしょう?
仮想通貨は現状のところ、たとえインサイダー取引をしたところで、規制の対象とはならないです。
なぜ仮想通貨はインサイダー取引の規制対象にならないのか?
現行の法律では、仮想通貨のインサイダー取引は、不正とはならない可能性が高いです。
というのも、仮想通貨は有価証券ではないからです。
政府の見解によると、ビットコインなどの仮想通貨はモノやサービスを購入することができる決済手段としています。
要するに、ビットコインなどの仮想通貨はあくまで決済可能な手段であって、有価証券としては扱っていないということです。
仮想通貨のインサイダー取引を不法行為とするためには、仮想通貨を有価証券もしくは通貨だとハッキリと政府が法的に認める必要があります。
そのため、仮想通貨のインサイダー取引をしたとしても、現行法ではインサイダー取引を理由に犯罪扱いされる可能性は低いです(2018年4月26日時点)
しかし、将来的に政府がICOなどを有価証券などと同じだと認めれば、インサイダー取引は不法行為として扱われる可能性があります。
bitFlyerのLisk上場はインサイダー取引に該当するのか?
bitFlyer(ビットフライヤー)といえば日本でもっとも取引量の多い取引所※です。もしもそこに仮想通貨が上場するとなると、価格が一気に高騰する可能性が極めて高いです。
※ Bitcoin 日本語情報サイト調べ。国内暗号資産交換業者における 2020年1月-4月の月間出来高(差金決済/先物取引を含む)
実際、リスクがビットフライヤーより上場した際には、価格が高騰しました。もしもLiskが上場することを事前に察知していた場合、上場前にLiskを購入することで、大いに儲けることができるでしょう。
それだけに、上場前にビットフライヤーの関係者がリスクを大量に購入し、上場をキッカケに価格が高騰した後に売って利益を得ると、それはインサイダー取引に該当します。
実はビットフライヤーよりLiskが上場する以前、この情報を仕入れることに成功し、儲けることができたという人物がTwitter上に現れました。
このTwitterの人物の発言がキッカケとなり、ビットフライヤーのLisk上場はインサイダー取引だったのではないのかという疑惑が浮上しています。
この疑惑はあくまで疑惑であり、確証はありません。
ただし、仮にこの疑惑が事実で、インサイダー取引だったとしても、現行の金融商品取引法ではこの行為を不正と断じることができません。
ビットフライヤーのLisk上場の背後にインサイダー取引の事実があったかどうかは現状のところ不明です。
仮にLiskのインサイダー取引があったとしても、現行法では不正とならず、犯罪にはならないです。
日本仮想通貨交換業協会の見解
2018年4月23日、日本仮想通貨交換業協会が設立されました。この協会には、金融庁より認可を受けた16社が参加しています。
協会の目的は、仮想通貨の取り扱いに関するルールを整備すること、金融庁から自主規制団体として認定されること、この二つを目指すとのことです。
日本における仮想通貨のルールは、この日本仮想通貨交換業協会が主導して整備されることになるでしょう。
では、日本仮想通貨交換業協会は、インサイダー取引に対してどのような見解を抱いているのでしょう?
ICOに関してですが、現状のところ、日本の法律でICOを規制する法律がないことを認めています。
ただし、ICOを有価証券とみなすのであれば、資金決済法の規制を受けるとしています。
ICOの情報がインサイダー取引に該当するかどうかは、トークンが有価証券に分類されるのか、それともされないのかをまずは判断する必要があるということです。
協会の方針としては、インサイダー取引などの不正行為は、自主規制という形で対応するようです。
ただ、あくまで自主規制であって、法的な規制ではないため、現状のところインサイダー取引をしても何かしらの罰則が発生するものではないです。
ただ、協会の方針次第では、自主規制のルールを破った取引所に対し、何かしらの罰則を協会主導で与えるかもしれませんん。
インサイダー取引の注意点
確かに現状において、インサイダー取引は倫理的には良くない行為ですが、法律的には違法性を問われません。
そのため、仮想通貨の上場や、ICOの情報を事前に察知し、それをヒントに取引をして利益を得たとしても、犯罪に問われることはないでしょう。
では、インサイダー取引はやった者勝ちということでしょうか?
確かに部分的にはそのような面があることを否定しません。ただ、インサイダー取引はやれば確実に儲かるというものではありません。
そもそも、インサイダー取引によって得たその情報は本物なのでしょうか?仮想通貨の世界には、真実の情報もあれば、虚偽の情報も多く流れています。中には風説の流布の可能性もあることでしょう。
たとえインサイダー取引をしたとしても、嘘の情報に釣られて取引をすると、利益を得るどころか、大損する可能性があるので注意しましょう。
詐欺の可能性
もしもこれから絶対に値上がりするICOトークンがあるので、公開前の安いうちに買っておいた方が良いなんて情報を得たら、必ず疑ってください。そのインサイダー取引の情報は、詐欺である可能性が非常に高いです。
まず、ICOだからといって、絶対に儲かるなんて上手い話など世の中には存在しません。どんなICOトークンにもリスクはあります。
なにより、そのICOトークンは実在するのでしょうか?ICOの詐欺の中には、実在しないトークンをまるで本当に存在しているかのように嘘をつき、投資を募った後、お金だけ奪って逃げるという手口があります。
もしもこの手の詐欺に引っかかった場合、投資したお金は戻ってこないでしょう。
インサイダー取引にはこのように、詐欺に引っかかるリスクがあります。
風説の流布の可能性
ICOトークンやアルトコインの中には、わざと価格を釣り上げるために、偽の情報をTwitterなどのSNS上に拡散することがあります。いわゆる風説の流布です。
仮想通貨は現在の法律では有価証券としては扱われていないため、風説の流布をしても罪に問われる可能性が低いです。そのせいか、ネット上には仮想通貨にまつわる信憑性の薄い情報が蔓延しています。
インサイダー取引をしようにも、このような風説の流布が蔓延している状況下では、とても本当に値上がりが期待できる情報だけを厳選することは非常に困難です。
インサイダー取引の情報かと思ったら、実は風説の流布で、偽の値上がり情報だった場合、投資をしても利益を得る可能性はとても低いです。
それどころか、買った途端に価値が暴落し、大損する可能性すらあります。
このように、ネット上に嘘の値上がりの情報を拡散させ、わざと価格を釣り上げた後に売って利益を狙う行為のことを、ネット上ではイナゴトレードなどと呼びます。
イナゴトレードは一見すると不正のように見える行為です。しかし、現行法では取り締まる法律がなく、規制の対象にはなりません。
インサイダー取引を避けた方が良い理由
インサイダー取引は確かに不正な行為かもしれませんが、現状では不法行為ではありません。しかし、将来的に不法行為になる可能性がとても高いです。もしも将来仮想通貨のインサイダー取引が不法行為になった場合、それを理由に何かしらのペナルティを受けることになるかもしれません。
なにより、仮想通貨の投資において、インサイダー取引は非常にリスクが多く、メリットが少ないです。
インターネットが発達している今の時代、仮想通貨の情報はネット上に溢れており、その9割以上は風説の流布だと考えた方が良いです。
確かに本物のインサイダー取引の情報に巡り合うことができれば、確実な利益を狙えるでしょう。しかし、詐欺や風説の流布に引っかかると、利益を得るどころか、大損する可能性があります。
このように仮想通貨のインサイダー取引は、メリットよりもデメリットの方が大きいのです。せっかく利益を得るつもりでインサイダー取引を始めたのに、損失を出してしまっては本末転倒です。
以上の理由より、インサイダー取引には手を出さない方が賢明でしょう。
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